「体感治安」向上目指し、積極的な対策へ 警察庁1月5日8時53分配信 毎日新聞

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070105-00000013-mai-soci

 犯罪の発生状況を表す全刑法犯認知件数がここ2〜3年減少し、「治安回復は曙光(しょこう)からさらに少し光が増した状況」(漆間巌警察庁長官)になった。しかし、殺人、強盗、放火などの重要犯罪の検挙率は59.7%と、80%台をキープしていた10年前と比べると遠く及ばない状況だ。国民が安心できる「体感治安」を向上させるため、警察当局は07年、子ども被害の匿名通報制度や、初の公費懸賞金制度の導入など、積極的な対策に乗り出す。【遠山和彦】
 ◇「懸賞金」「子供被害に通報」導入
 子どもたちが被害者になる事件の捜査に役立てるため、匿名で情報を受け付ける「子ども等を守るための匿名通報モデル事業」(仮称)を今年秋をめどに導入する。女の子を売春させたり、風俗業で働かせたり、女性を狙う性犯罪などに関する情報に限定して情報を受け付ける。成果を見極めたうえ、薬物犯罪や窃盗などの情報へ範囲拡大も検討する予定だ。
 事業は防犯ボランティアのNPO(非営利組織)など民間団体に委託。その事務所に設置した電話で全国から匿名の情報を受け付け、関係警察本部に通報してもらう。捜査に役立った情報には上限10万円程度の報奨金が支払われる。潜在化する情報を風評レベルの段階から受け付け、捜査に少しでも役立てるのが狙いだ。
 また、これとは別に、重要犯罪の犯人逮捕に結びつく有力情報を得るため、公費での懸賞金制度を今年4月にも導入する。これまでも被害者の遺族や警察関係団体が懸賞金を出すケースはあったが、公費支出は初めてになる。過去に懸賞金がかけられた事件は33件あり、松山市のホステス殺人事件(82年)など逮捕に結びつき、懸賞金が支払われたケースは5件に上っている。
 一方、今年度47都道府県の地方警察官3000人が増員される。増えた警察官は街頭犯罪対策のパトロールなどの要員に重点的に配置して、対策を充実させる予定だ。地方警察官は01年度から連続して増員しており、07年度定員は24万6761人。警察官1人当たりの負担人口は現在の513人から増員後は511人になるという。 
 ◇「聞き込み」難しく 技の伝授と科学力で補強 
 確かに警察捜査を取り巻く環境も変わってきた。「この20年の間、年々捜査しづらくなってきた」。刑事局幹部はそう指摘する。
 警察庁が04年に行った調査では、89年当時は殺人などの凶悪犯事件のうち12.7%が捜査員の聞き込みがきっかけとなり検挙につなげていた。ところが、04年には聞き込みをきっかけとした検挙が4.5%にまで落ち込んだ。近隣に対する関心が薄れたうえ、住民意識が変化し、刑事の聞き込みも昔のようにはいかなくなってきたためだ。
 このため、DNAデータベースの充実など科学捜査力の強化を図るとともに、団塊世代の大量退職にそなえ、ベテラン捜査員による聞き込み捜査手法などの若手への伝承にも力点を置いていく方針だ。
 さらに、同庁が期待を寄せているのが、住民による防犯ボランティア活動。全国で約2万6000団体(昨年10月現在)にまで広がっている。同庁幹部は「民間ボランティアの枠組みは、同時に捜査の協力ネットワークの確保にもつながる」と指摘する。
 ▽前野育三・大阪経済法科大教授(刑事政策)の話 公的懸賞金制度の活用などで重要事件が市民の協力で解決したという実績が重なれば、それ自体が、体感治安のアップにつながる。犯罪追放には社会の連帯感を強めることが必要で、地域の防犯という共通目的を持った防犯ボランティアは、そうした連帯感を強める働きも担っている。
 ◇強制わいせつ対策 課題
 警察が重点的な取り締まりを指示しているのは「重要犯罪」と「街頭犯罪」だ。特に殺人、強盗、放火などの6罪種の重要犯の検挙率は、98年当時の80%台から低下を続け、02年には過去最悪の50.2%まで落ち込んだ。03年以降は上昇に転じたが昨年(1〜11月)も60%を割り込んでいる。
 罪種別では、▽殺人96.8%▽強盗60.1%▽放火77.0%▽強姦(ごうかん)75.1%▽略取・誘拐90.7%▽強制わいせつ45.7%。
 検挙率を押し下げているのは、5割を割り込んだ強制わいせつ。98年の82.3%が、02年はわずか35.5%になった。認知件数が98年の4251件から06年の8751件と、この約10年で倍増したことも大きく影響している。女性の届け出件数が増えた事情があるとはいえ、急増する事件に対し検挙が追いついていない現状が浮かぶ。
 一方、街頭犯罪は昨年(1〜11月)、▽路上強盗1639件(前年同期比18.9%減)▽ひったくり2万4601件(同17.9%減)▽自動販売機狙い5万1966件(同37.3%減)▽自動車盗3万3464件(同22.9%減)といずれも減少した。だが、街頭での暴行だけが、1万7271件(同16.2%増)と増えている。相手がけがをすれば傷害となるため、それに至らない「肩が触れた」程度のいさかいからけんかに発展する事件が多発している。

 市民ボランティア等による「コミュニティによる犯罪予防」が日本でも展開されてきました。このような市民の努力は、十分評価・尊重されるべきです。
 しかし、注意を要すると思われるのが、このような「コミュニティによる犯罪予防」がいい側面ばかりを持つのかという点です。
 第一に、このような「コミュニティによる犯罪予防」が、犯罪予防を目的としつつ、その効果が測定されていないという点です。外国では、コミュニティによる犯罪予防プロジェクトはすべてでないにしろ、その結果は示されています。
 第二に、効果があるとして、この「コミュニティによる犯罪予防」がもたらす弊害はないのかという点です。この犯罪予防の動きは、一般の「市民」と「危険そうな不審者」および「犯罪者」の間に大きな溝を作る可能性をもっているのではないでしょうか。市民ボランティアは、安全な社会を作るため、徹底してコミュニティを「監視」するでしょう。これはボランティアの目的からいっても、当然のことでしょう。しかし、その「不審者」の基準は非常に曖昧です。そのような曖昧かつ主観的な基準によって「監視」そして最終的には「排除」が行われる問題性は注意すべきでしょう。
 第三に、このような問題点の結果です。市民ボランティアによって「不審者」と判断された者は、程度の差はあるにしても「排除」されることになります。その結果、この「不審者」と判断された者は、どこのコミュニティにも属することができないということになり得ます。「コミュニティの再生」が犯罪予防に不可欠なのであれば、この「コミュニティから排除された者」は結局犯罪に走ることになるのではないでしょうか。不純物のないあまりにクリーンなコミュニティ作りは、かえって犯罪を増やすことになりはしないでしょうか。そもそも「コミュニティ」は犯罪予防のためだけに存在しているわけではないはずです。あくまで副次的効果にすぎない「犯罪予防」を主目的として「コミュニティ」を再構成することは、上にあげたようなひずみを生むことになるのではないでしょうか。
 「犯罪予防」のための努力自体は非常に重要ですが、大きな視点というものが必要な気がします。

さらに、以下の文献も非常に参考になります。
浜井浩一=芹沢一也『犯罪不安社会 誰もが「不審者」?』(光文社、2006)