県警の違法捜査認定 鹿児島・選挙違反 地裁が賠償命令

 2003年の鹿児島県議選の選挙違反事件で、公選法違反(現金買収)容疑で逮捕され、起訴猶予処分となった同県志布志市のホテル経営川畑幸夫さん(61)が、親族の名前などが書かれた紙を踏ませるなど県警の違法捜査で精神的苦痛を受けたとして、県に慰謝料など200万円を求めた国家賠償請求訴訟の判決が18日、鹿児島地裁であった。高野裕裁判官は違法捜査を認定し、県に60万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
 「たたき割り」と呼ばれる強引な捜査手法が指摘され、刑事裁判では12被告全員が無罪を主張している同事件をめぐり、司法判断が示されたのは今回が初めて。
 判決によると、川畑さんは03年4月、3日間にわたって黙秘権や供述拒否権を告知されない違法な取り調べを受けた、と主張。
 また、担当の警部補(44)が川畑さんの亡父や孫らの名前と、メッセージに見立て「早く優しいじいちゃんになってね」などと書いた紙3枚を床に置き、川畑さんの足首をつかんで無理やり踏ませるなどしてうその自白を強要した、と訴えていた。
 警部補は証人尋問で「黙秘権は取り調べ初日に告知した」などと反論。紙を踏ませた行為については「1回だけやった」と認めたが、「無理やりではなく、黙秘を続ける態度が親族の気持ちを踏みにじることになる、と分からせるためだった」と主張、県側は違法性を否定し争っていた。

2007/01/18付 西日本新聞夕刊より

当然の判断といえるでしょう。しかし、最高裁自身は黙秘権の告知がない取調べが必ずしも違法になるという態度はとっていません。そうなると、今回の取調べは、黙秘権の告知がなかったことに加え、あまりに精神的打撃が大きい取調べがなされたと評価されたのでしょう。その意味では、黙秘権やその告知の意味はまだ高くはないといえるのでしょうか。この黙秘権やその告知の意味や位置づけについて、裁判官や捜査機関の方々はもう一度考え直す必要があると思うのですが…
 それにしても、警察側の証言については大きな疑問があります。黙秘権の告知があったとしても、「無理やりではなく、黙秘を続ける態度が親族の気持ちを踏みにじることになる、と分からせるためだった」という証言はどういう意図でなされたのでしょうか。無理矢理ではなく「わからせるため」に紙を踏ませるというのが、いまいち想像できないのですが… また、この証言を聞いても、警察官が認識している、警察や取調べの役割がわかってきそうです。真相の解明というだけならまだしも、「親族の気持ちを踏みにじることになる、とわからせるため」とは… 取調べの可視化に対する反対論として、取調べによる被疑者の反省・更生という役割が低下するという意見がありますが、このような効果について実証的な研究があるわけでもありません。そして、そのような効果があるとしても、警察官の自由な判断で何をやってもいいわけでもないでしょう。
 無罪推定という観点からも大きな疑問があることは言うまでもありません。被疑者・被告人が有罪か無罪かという判断は、裁判所でなされるべきことはいうまでもありません。しかし、このような捜査機関の態度は、まさに被疑者・被告人が有罪であることを前提に被疑者・被告人の反省を求めるものであり、まさに違憲の取調というほかないでしょう。このような事態で、取調の可視化に反対する意味はもう少ないのではないでしょうか…
 さらにこちらも参照。 「中山事件」の闇