「私服警官の職質でPTSD」 中3が佐賀県提訴

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/20061014/20061014_006.shtml

 人けのない夜道で警察手帳を提示せずに呼び止めるなどの違法な職務質問を受けたため、追跡してきた私服警察官を変質者と勘違いし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になったとして、佐賀県伊万里市内の中学3年の女子生徒(15)とその両親が同県に約560万円の損害賠償を求める訴えを佐賀地裁武雄支部に起こしていたことが13日、分かった。

 訴状によると、生徒は1年だった2004年11月20日午後7時前、公民館の書道教室から自転車で帰宅する途中、真っ暗な道で自家用車に乗った県警巡査部長から「駐在所のお巡りさん」と名乗られて、呼び止められた。驚いて逃げたが、大声を上げて車で追いかけてきたため、「殺される」と思い、公民館に戻り書道の講師に助けを求めた。その後、生徒は暗い場所や人と会うのを怖がるようになり、PTSDと診断され、現在も通院を続けているほか、不登校になった、としている。

 巡査部長はこの日、非番だったが、自転車の窃盗事件を調べていたという。生徒の自転車は盗難車ではなかった。県側は「正当な職務質問だった」として、請求の棄却を求める答弁書を提出している。

西日本新聞より。
 「正当な職務質問だった」という主張の根拠は何なのでしょうか。その点は明らかではありませんが、「自転車窃盗について調べる行為」であったからというのでは理由にならないと思います。
 職務質問は、警察官職務執行法2条1項で認められた行為です。そこでは、
 「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて、知つていると認められる者を停止させて質問することができる」と規定されています。
 おそらくこの条文を非常に形式的に解釈して、合法であったと主張されるのでしょうが、この点、警職法1条1項は、警察官の職務の目的を「個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防…」と規定し、さらに警職法1条2項は、これらの「目的のため必要な最小の限度において」職務質問を行うべき、と規定している点が無視されてはならないでしょう。
 これらの条文からすれば、例えば職務質問の際、「自転者窃盗について調べる」という目的や行為の正当性だけでなく、そのプロセスの正当性も問われなければならないというべきでしょう。
 この点、この事件では、訴状によれば、警察官だと名乗るだけで警察手帳を見せていない、真っ暗な道で、しかも自動車に乗って声をかけている、さらに大声で車で追いかけているなど、およそ「必要最小限」とはいえないプロセスを経ていることは明らかです。
 さらに、非番であったことなどを加味すると、明らかな証拠や緊急性などもないのに、漠然と職務質問をしたのであれば、警職法2条1項の「警察官」に該当するかも疑問です。
 学説上でも、真の任意の職務質問はあるのかという点は指摘されています。それに加え、このような(道の状況や女子中学生であったことなどの)状況やプロセスを経て、それでも「正当」であったというのであれば、警職法1条2項のいう「必要最小限度」性とは何を意味するのか、逆に聞いてみたい気がします。