サイバー犯罪に「おとり捜査」=児童ポルノ、偽ブランド、ID対象−警察庁

http://www.jiji.co.jp/jc/c?g=soc_30&k=2006102600230

警察庁は26日、インターネット上で違法に販売されている児童ポルノ画像や偽ブランド品などについて、警察官が客を装って買い取り、検挙に結び付けるおとり捜査の手法を積極的に推進する方針を決めた。検挙した際は捜査の経緯も公表し、同種犯罪の抑止を目指す。27日の全国会議で各都道府県警に指示する。
 対象となるのは、DVDなどで販売されるわいせつ画像や児童ポルノ海賊版コンピューターソフト、偽ブランド品、ネットオークションのIDやパスワードなど。
 警察官が身分を隠してネット上で購入。違法かどうかを確認し、家宅捜索や検挙につなげる。

時事通信より。
 またもや「任意捜査の限界」として論じられる問題が出てきそうですね。
 「おとり捜査」については、機会があれば犯罪を行おうという意思を持っていた者に対する「機会提供型」と、犯罪を行う意思はなかった者に対する「犯意誘発型」とを分け、後者は違法であるとする二分説が有力に主張されてきました。
 この点、最高裁平成16年7月12日決定は、
 a「直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において」
 b「通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に」
 c「機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象に」
おとり捜査を行うことは、刑訴法197条の任意捜査として許されると判示しています。
 今回の警察庁の方針も、この最高裁判例に則って進められるべきということになるでしょう。
 最高裁判例を分析すれば、薬物犯罪のように隠密・巧妙・組織性を備え、かつ特定の個人の権利・利益を直接侵害しない一定の犯罪に関する捜査で、「通常の捜査のみでは当該犯罪の摘発が困難」、つまりおとり捜査が必要不可欠であること、そして機会提供型のおとり捜査であることが合法なおとり捜査というための条件となります。
 このような最高裁判例の視点から見ると、今回の警察庁の方針をみてみると、対象となる「サイバー犯罪」も薬物犯罪と類似するものは少なくなくないこと、インターネット上で販売をしているのであるから、犯罪の意思を持っていると評価できることも多く「機会提供型」といえる場合が多いこと、がいえるでしょう。
 しかし、サイバー犯罪だからといって常に「通常の捜査のみでは当該犯罪の摘発が困難」という要件を満たすわけではありません。この要件を個別具体的に、かつ厳格に判断する必要があるでしょう。その意味では、捜査の経緯の公表は重要でしょう。
 もっとも、警察庁の方針をよく見てみると、「検挙した際は」捜査の経緯を公表するとし、また「違法かどうかを確認し」、家宅捜索や検挙につなげるという点には注意を払うべきであろうと思われます。「違法かどうかを確認し」捜査や検挙につなげるという手法は、しらみつぶしにネット上のオークションなどがチェックすることを意味しますし、またここでは判例が示した「通常の捜査のみでは当該犯罪の摘発が困難」という基準の考慮がなされているとはいいがたいように思われます。また、「検挙した際」ということは、それ以外の場合は公表されないということになり、透明性の担保としては不適当ではないかと思われます。
 この方針も、やはり「必要性」が先走りしたものである感はぬぐえません。「相当性」という絞りをかける意味や内容ををもう一度再検討すべきなのかもしれません。