犯罪白書:失業減ると犯罪減少 就労支援で抑止効果−−法務省公表・06年版

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20061107dde041040013000c.html

 一般刑法犯の認知件数と完全失業率の推移 法務省は7日、06年版犯罪白書を公表した。失業率の動向が犯罪発生件数の増減に影響を及ぼしていると分析し、「罪を犯した人に対する就労支援などの雇用対策が犯罪抑止のための有効な施策の一つだ」と指摘している。【森本英彦】

 白書によると、交通事故による業務上過失致死傷罪を除いた刑法犯(一般刑法犯)を捜査機関が認知した件数は96年から急増し、02年には戦後最多の約285万件に達した。しかし、03年からは逆に減り始め、05年は約227万件で3年連続減少した。

 また、完全失業率は90年代半ばから上昇し、02年には近年では最も高い5・4%を記録したが、03年以降は低下傾向にあり、05年は4・4%まで改善した。

 一般刑法犯の認知件数と完全失業率の推移はほぼ同じカーブを描いており、白書は「不況の影響による失業率の上昇が窃盗などの財産犯を増加させ、失業率の低下が犯罪を減少させる方向で影響を与えたことがうかがえる」と分析している。

 一方、罪を犯した人に対する就労支援策は緒に就いたばかりだ。法務省厚生労働省は昨年8月、「刑務所出所者等総合的就労支援策」をまとめ、刑務所や保護観察所ハローワーク公共職業安定所)が連携した職業紹介に乗り出した。

 政府の「再チャレンジ推進会議」は今年5月、出所者の自立更生を促すための就労支援体制を設けて雇用を掘り起こし、就労先をあっせんすることなどを提言している。

毎日新聞より

 法務省による分析の詳細は、犯罪白書そのものを読むまではまだよく分かりませんが…
「罪を犯した人に対する就労支援などの雇用対策が犯罪抑止のための有効な施策の一つだ」
という指摘自体は、私も重要だろうと考えます。
かつて、著名な刑法理論家でもあるフランツ・フォン・リストは、「社会政策は、同時に最良の、そして最も有効な刑事政策である」と指摘しました。この指摘は現在でも重要な意味を持つのだろうと私は考えています。つまり、犯罪予防の手段としては刑法以外にもさまざまな社会政策も含まれるべきで、さらに、もっとも重い制裁手段である刑法は「ウルティマラティオ(最後の手段)」でなければならないということなのです。
このような考えからすれば、犯罪白書における指摘は、やはり意味があるものといえます。しかし、気になる点もいくつかあります。

 第1に、「罪を犯した人」に対する社会政策が犯罪抑止のために有効な手段の一つであるとしている点です。つまり、一度刑罰を科した者を対象とする社会政策がここでは想定されているといえます。しかし、リストの指摘からすれば、国民・市民すべてに対する社会政策こそが犯罪予防に資するというべきではないでしょうか。刑罰を第1の、最初の手段として用い、その刑の執行終了後に社会政策を用いる…という方法は、その有効性からしてもやや疑問があります。もちろん、刑の執行終了後における社会政策は重要ですが、それは「特に重要」ということとされるべきであり、犯罪を犯していない者が犯罪を行わないようにする社会政策も重要であるということは踏まえられるべきでしょう。

 第2に、近年みられる社会内処遇の改革動向との整合性です。更生保護に関する有識者会議では、社会内処遇における監視・コントロール強化の視点が多くみられます。これは社会政策などにもとづく「援助」という視点とは正反対のものといえます。このような動きと犯罪白書の指摘をみると、どうも刑の執行終了後における対象者の取扱いについても、二極化が進むのではないか?という気がしてなりません。つまり、重大犯罪を行った危険な者については監視・コントロール重視の取扱いを行い、軽微な犯罪を行った者については就労支援を行っていくという意味での二極化です。しかし、真に援助が必要なのは重大な犯罪を犯した者なのではないでしょうか?これも犯罪予防の有効性という点からも疑問があります。

 まだ詳細な分析をみていませんが、以上の二点について少し疑問だったので、思うままに書いてみました。